Cypherpunks と Bitcoin

Youhei Nitta
3 min readNov 10, 2013

「サイファーパンク—インターネットの自由と未来」を読んだ。ここ最近読んだ本で最も刺激的な本だった。

内容はジュリアン・アサンジ(Wikileaks 主宰)、ジェイコブ・アッペルバウム(Tor プロジェクト提唱者)、アンディ・ミュラー=マグーン、ジェレミー・ジマーマンら四人によるディスカッションの記録となっている。

Cypherpunks も Wikileaks もアンダーグラウンドで危険な匂いのする団体、という作り上げられたイメージが強い。しかしディスカッションの内容は超一流のテクノロジストかつ前衛的社会活動家たちが溢れる知性を開放し、真剣に自由闊達な議論をしている、という印象だった。読んでいて楽しめる反面、高度な内容が矢継ぎ早に飛び交っているので脚注の補足説明なしではとても理解できない内容となっていた。

全体を通底するテーマはインターネットの普及から急拡大した国家の大規模監視に対する警鐘なのだと思う。

スノーデン事件以降明るみに出た NSA による監視に関する話題が連日ニュースになっていて、民主主義と全体主義が紙一重になりつつある社会変化に多くの人が気付き始めている。しかし、普段からインターネットの便利さを享受した生活を送っている楽観的な人たちからすると「自分の生活を盗み見られてるなんてちょっと気味が悪いな」という以上の感想にはなりにくいのも事実で、この本はそこから更に一歩進んで考える機会を与えてくれる。

また、これまでいまひとつ存在理由を理解できていなかった Bitcoin についても理解できた。今日のメジャーな電子決済は全て原理上トラッキング可能なもので、この点は現実の通貨の特性とは異なっている。この本の言葉を借りれば「プーチンが VISA でコークを買ったら30秒後にはワシントン D.C. にバレている」、ということになる。この問題を解決した現実の通貨と同じアーキテクチャを持つ仮想通貨が Bitcoin、ということだ。なかなかに分かりやすい説明だった。

大規模監視の主たる問題は代替案を提示できていない現状ということにあって、あらゆる産業がインターネットに入り込んでくればくるほどその代替案も減っていくように思える。あらゆる行動は自己検閲を意識し、iPhone も持たず Google も Facebook も使わず Amazon で買い物をしない生活を送る、なんていうのは一度それを享受した人間には難しいことだと思う。

今ではポピュラーな技術になった通信の暗号化も出現当初は兵器取引のように分類されアンダーグラウンドなイメージがつきまとっていた。インターネットと経済が結び付いてブラウザにビルトインされるようになって初めて表舞台に立つことが出来た。Tor や Bitcoin も何かのきっかけでアンダーグラウンドから表舞台に引き上げられることがあるかもしれない。

Tor や Bitcoin を生み出したハッカー文化というのは、ディストピア的な未来へ向かう大きな流れに対して代替案を提示できる唯一の小さな希望なのだと思う。

--

--

Youhei Nitta

I’m a software engineer who works in Fukuoka. These writings are not about the engineering. @youhei